人工透析内科について
人工透析とは
腎機能が著しく低下すると、十分な濾過機能が果たせなくなり、体じゅうに老廃物が溜まって尿毒症*になってしまいます。老廃物や毒素などの尿毒症物質を取り除いて、尿毒症を防ぐために必要になってくるのが、人工透析です。人工透析とは「腎不全の末期症状において、低下した腎機能を人工的に代理する治療」のことです。
食事療法や薬物療法など、いろいろな治療を続けてこられた方が、医師から透析が必要になった旨を告げられると、強いショックを受け、大きな不安にかられることは、容易に想像がつきます。
しかし、透析は、失われた腎機能を代替して体内環境を整え、これから先の生活、ひいては人生を充実させてくれる治療法です。透析を受けながら仕事を続けている方は大勢おられますし、旅行や趣味などを楽しみながら、いきいきと毎日を過ごしておられる方もたくさんお見受けいたします。ですから、透析が必要となった場合にも、どうか前向きな気持ちで、この治療法を受け入れてください。
血液透析が必要になった場合は一度、当院の人工透析内科にご相談ください(※当院では、人工透析患者様のための「送迎」を行っております)。
*尿毒症
腎機能が正常な時の10分の1以下まで低下し、本来なら排出されるべき毒素や老廃物が血液中に蓄積することによって起こる一群の症状(症候群)です。脳症状や胃腸障害をはじめ、全身にわたる多様な症状が出現します。
透析療法について
腎臓の働きが「10%以下」になると、血液の濾過が十分に行えず、水分や老廃物のコントロールができなくなってしまいます。そのような場合に、人工的に血液の浄化を行うのが、透析療法です。日本における透析の患者数は2011年12月末現在で30万人を超え、国民の約420人に1人が透析患者となっています。
透析療法の開始時期についてですが、早過ぎず・遅すぎずに開始することは、実際には非常に難しいことなのですが、腎不全による症状や日常生活への影響(仕事や家事、生活動作、日常生活への支障)などを考慮して、一番適切と思われる時期を判断します。一般論的には、原因疾患が糖尿病性腎症や腎硬化症の場合やお年寄りでは、他の疾患(腎炎など)による場合や若い方に比べ、より早期に透析を受けていただく傾向があります。
透析療法には、下記のように「血液透析療法」「オンラインHDF療法」、また自分のお腹の腹膜を使う「腹膜透析療法」の3種類があります。
血液透析療法
人工腎臓とも言える血液透析器(ダイアライザー)を通して、血液を体内から取り出し、血液中の毒素や老廃物、余分な水分を取り除き、不足している電解質などの交換をして血液を正常な状態にし、きれいになった血液を体内に戻す方法です。
効率良くたくさんの血液を透析器に送り込むためには、血液を安全に体内から取り出せるように皮膚のすぐ下にたくさんの血液が流れている血管を作る必要があります(バスキュラーアクセス)。そのために、患者さんの前腕の腕時計をするあたりを走る静脈と動脈をつなぎ合わせる手術(内シャント造設*)を行います。こうすることで、静脈の中に勢いの良い動脈血が流れ込み、透析に必要な血液量を確保することができるようになります。
*内シャント造設
一般的には血清クレアチニン値(腎機能を表す指標の一つ。クレアチニンは腎臓から排泄される老廃物の一種で、腎機能が低下すると、血中のクレアチニンが多くなる)が7.0mg/dL くらいになった段階で内シャントをつくり、透析開始の準備をします。この時期については、患者さんの年齢や原因疾患、血管の状態などによって、いくらか差が生じてきます。
オンラインHDF療法
HDFとは、通常の透析(HD)に血液の濾過(F)を加えた治療法(血液濾過透析)で、腎臓の働きに近い透析法と言えます。
HDFでは、濾過する量を増やすために補液をし、血液透析よりも濾過をたくさん行うことによって、血液透析では取り除きにくい低中分子たんぱくと言われる物質までを取り除くことができます。また、腎臓の役目をする透析膜も高性能膜を使用することが可能で、老廃物の効率の良い除去が可能です。
このHDFには、オフライン方式とオンライン方式があり、それぞれオフラインHDF(off-line HDF)、オンラインHDF(on-line HDF)と呼ばれています。その違いは、主に老廃物を濾過するための補充液の量の差です。オフラインHDFは瓶や補液バッグに入った薬剤を補液として使用するので、濾過するために足される補液量は少なく(8〜12Lくらい)、オンラインHDFは透析液をそのまま補液として使用するため、濾過のために足される補液量が多くなります(24〜48Lくらい)。そのため、オンラインHDFのほうが、より多くの濾過を行うことができ、つまりはより多くの老廃物を取り除くことが可能になるのです。
また、透析を長期にわたって続けていると起こってくる合併症に透析アミロイドーシスがあります。これはβ2-ミクログロブリンを原料とするアミロイド線維が関節や骨に沈着して神経を圧迫することによって生じる骨・関節障害の総称で、手のしびれや、手指の動きの障害、肩の痛みといった症状が現れてきます。例えば、手首の靱帯や腱の滑膜にアミロイド線維が沈着すると、周囲に炎症が起きて近くの正中神経を圧迫するため、手指の痛みやしびれ、親指の動きに支障をきたします(手根管症候群)。オンラインHDFでは、β2-ミクログロブリンを積極的に取り除き、透析アミロイドーシスを予防することができます。
ただし、オンラインHDFを行うには、きれいな透析液を使用することが絶対条件ですので、厳重な透析液の水質管理が必要になってきます。
腹膜透析療法(PD)
お腹の中に透析液を入れ、自分の体の腹膜を使って体内で血液を浄化する治療法で、自宅や職場で患者さんご自身が行います。
腹膜は、胃や腸などの臓器を覆っている薄い膜組織で、表面には毛細血管が網の目のように分布しています。この膜を透析膜として使用します。お腹の中にカテーテル(チューブ)を通して透析液を入れておくと、血液中の老廃物や不要な尿毒素、電解質などが透析液のほうに移動します。また、透析液と血液の浸透圧の差(透析液は糖などの浸透圧物質なため、浸透圧が血液より高い)によって、体内の余分な水分を除去します。
したがって、腹膜透析療法では、透析液を出し入れするためにカテーテルを腹部に埋め込む手術が必要になります。また、治療の状況を記録のうえ、月1~2回受診していただきます。腹膜透析の方法には、CAPD(持続携帯式腹膜透析。透析液の入れ替えのためのバッグ交換は通常、朝、昼、夕方、就寝前の1日4回程度が必要)と夜の寝ている間に機械(自動腹膜透析装置)を使って自動的に腹膜透析を行うAPD(自動腹膜灌流装置)の2種類があります。
腹膜透析と血液透析を組み合わせて、患者さんの生活リズムやADL(日常生活動作)をこれまで以上に向上させられるような治療法も現在、研究されています。